Memo

#生椛
晴天の下、チャペルの扉が開く。
『新婦、入場。拍手でお迎えください』
アナウンスとともに、椛がウェディングドレス姿で姿を現した。
顔を上げた椛の先には、タキシード姿の來人が立っている。
來人が手を差し伸べる。
椛は花が開くような笑顔を浮かべると、父親の腕から手を離し、來人のもとへ駆け出した。
來人はその身体を受け止め、勢いのまま一回転する。
会場から歓声が上がった。
最前列の席でその光景を見つめながら、生行は静かに目を細めた。
(どんな人だろうとは思っていた)
親友の話に頻繁に出てくる幼馴染。
椛ちゃん。
HAMAツアーズに誘われた時も、スターティングメンバーの一人として彼女の名前が挙がった。
その時、一瞬だけメモを取る手が止まった。
ただの興味だった。
親友の想い人への。
だが可不可は見逃さなかった。
『椛ちゃんに惚れないでね』
『あのなあ……』
呆れながら返したのを覚えている。
けれど一年も経つ頃には、可不可が彼女を好きな理由を嫌というほど理解していた。
彼女は太陽だった。彼女の隣はあたたかくて心地良かった。
誰かを選ばず、誰かを見捨てず、平等に周囲を照らす。
もちろん――あいつのことも。
 

來人が椛の肩に手を置く。
そっと額にキスを落とした。
顔を見合わせる二人。
その瞬間、生行の瞳から涙が一粒こぼれ落ちた。
荒れていた頃の來人が脳裏をよぎる。
「くそっ……」
目元を手で覆う。
眉を寄せる。
唇を噛む。
 


「椛さん」
披露宴も見送りも終わり、会場の外。
一人でいる椛を見つけ、生行は声をかけた。
「生行くん!」
椛が気付いて笑う。
「どこにいるんですか、あいつ」
「來人さんは──」そう言って会場の端に顔を向ける。そこには知り合いと談笑している兄がいた。
「今日は来てくれてありがとう」椛が生行に声をかける。
「何言ってるんですか」
生行も笑った。
「家族なんですから、当たり前でしょう」
「ふふっ、そうだね」
しばらく彼女を見つめる。
そして生行は椛の前に進み出た。
ゆっくりと膝をつく。
「生行くん!?」
驚く椛に向かって、
「……お礼を言うのはこちらです」
椛の手に、自分の手を添える。
「椛さん」
顔を上げる。
「兄の愛を受け入れてくださって、ありがとうございます」
椛が息を呑む。
「たくさんの選択肢の中から、兄を選んでくださったこと」
「感謝してもしきれません」
震えそうになる声を抑えながら、生行は微笑んだ。
「あなたと出会えて、良かった」
その言葉に、椛の瞳が潤んだ。